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東京高等裁判所 平成3年(う)1065号 判決 1991年12月10日

主文

原判決を破棄する。

本件を横浜地方裁判所に差し戻す。

理由

本件各控訴の趣意は、東京高等検察庁検事中嶋三雄及び弁護人山之内幸夫提出の各控訴趣意書に記載されたとおりであるから、これらを引用する。

検察官の所論は、要するに、本件は必要的弁護事件であるのに、原裁判所は、刑訴法三一条、二八九条に違反し、原審第五回公判期日に、弁護人がないまま開廷して審理を行っているから、原審の訴訟手続には、判決に影響を及ぼすことの明らかな法令違反がある、というのである。

記録及び当審事実取調べの結果によれば、原裁判所は、原判示と同旨の殺人、銃砲刀剣類所持等取締法違反(第三一条の二第一号・拳銃の所持)、火薬類取締法違反(第五九条二号・拳銃実包の所持)の各公訴事実(但し、公訴事実第一の死因について、後記のとおり訂正がある。)を審理のうえ、「被告人を懲役一五年に処する。未決勾留日数中一〇〇日を右刑に算入する。押収してある鉛弾丸一個及び半被甲弾丸一個を没収する。」旨の判決を言い渡していること、平成三年七月一七日の原審第五回公判期日は、当初判決宣告期日として指定されていたが、同期日前の同月九日、検察官から被害者の死因に関する鑑定書の取調べ請求のため、弁論の再開が申し立てられ、右第五回公判期日において、弁護人三名のうち、主任弁護人Aのみが出席して、弁論が再開され、右鑑定書が同意書面として取調べられた後、検察官が右鑑定書に従って、起訴状第一記載の被害者の死因を「胸大動脈射創等」から「胸腹部大動脈貫通射創」と訂正する旨の申立をし、続いていずれも「前回どおり」との検察官の意見(論告求刑)、右A弁護人の意見、被告人の最終陳述が行われて結審し、即日判決の宣告が行われたこと、右A弁護士の所属する第二東京弁護士会は、平成三年七月一五日、同弁護士に対して弁護士法五七条三号所定の退会命令の懲戒処分をし、同処分の通知は、同月一六日東京都千代田区神田小川町<番地略>○○ビル内にある同弁護士の法律事務所に配達証明付書留郵便で送達されて、同処分の告知がなされたことがそれぞれ認められる。

以上によれば、原裁判所は、本件各公訴事実が刑訴法二八九条所定の死刑、無期若しくは長期三年を超える懲役にあたる事件であり、同法三一条により弁護士である弁護人がなければ開廷することができないのに、平成三年七月一六日に弁護士の資格を喪失したAを弁護人として、同月一七日に原審第五回公判を開廷して審理を行っているのであるから、同公判期日は、弁護人がないまま開廷され、その審理が行われたことになる。

したがって、原審の第五回公判期日における訴訟手続は、刑訴法三一条、二八九条一項に違反するものであり、かつ、同期日に行われた前記審理の内容にかんがみると、その違反が判決に影響を及ぼすことは明らかというべきであるから、論旨は理由がある。

よって、弁護人の控訴趣意に対する判断をするまでもなく、刑訴法三七九条により原判決を破棄し、同法四〇〇条本文により本件を原裁判所である横浜地方裁判所に差し戻すこととし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官小林充 裁判官宮嶋英世 裁判官中野保昭)

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